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飲食店の人材採用と定着 求人ゼロで「辞めない職場」を作る方法

飲食店の人材採用と定着 求人ゼロで「辞めない職場」を作る方法

はじめに|求人を出し続けても人が集まらない時代になった

飲食店の経営者が今最も頭を悩ませている問題の一つが人材だ。

求人サイトに掲載しても応募が来ない。やっと採用できたと思ったら3ヶ月で辞める。ベテランスタッフが突然退職して現場が回らなくなる。こうした状況は、もはや特定の店の問題ではなく、業界全体の構造的な問題になっている。

厚生労働省の統計によると、飲食業の離職率は全業種平均を大きく上回る水準が続いている。人手不足が常態化した結果、残ったスタッフへの負担が増え、それがさらなる離職を招くという悪循環に陥っている飲食店は少なくない。

しかし一方で、求人広告をほとんど出さずに安定した人員を確保し、スタッフが長く働き続けている飲食店も存在する。その違いはどこにあるのか。

このページでは、採用コストをかけずに「辞めない職場」を作るための具体的な方法を解説する。特効薬はない。しかし、やるべきことを地道にやっている店は、確実に人材問題から抜け出している。


飲食業の離職率が高い本当の理由

対策を考える前に、なぜ飲食業で人が辞めるのかを正確に理解する必要がある。

よく言われる理由は「給料が低い」「労働時間が長い」「休みが少ない」だ。これらは確かに要因だが、それだけではない。

① キャリアパスが見えない

「この店で働き続けたら、3年後・5年後に何が得られるのか」が見えない職場では、スタッフは将来に不安を感じて辞める。調理師や接客のスキルは身につくが、それが評価・昇給・昇格にどう連動するのかが不透明な職場が多い。

② 理不尽な扱いへの不満

シフトが直前に変更される、休憩が取れない、ミスを人前で叱責される、店長によって対応が違う――こうした「理不尽さ」の積み重ねが離職につながる。給料より、「人として扱われているか」の方が離職の引き金になることが多い。

③ 入社前後のギャップ

求人票に書かれた条件と実際の職場環境が違う。これは即離職の原因になる。「週2〜3日から」と書いてあったのに週5日入るよう求められる、「アットホームな職場」と書いてあったのに実態はギスギスしている、といったケースだ。

④ 孤立感

特にアルバイトや新人スタッフは、職場になじめずに孤立して辞めるケースが多い。「仕事を教えてもらえない」「誰に質問していいかわからない」「自分がいてもいなくても関係ない」という感覚が離職を早める。

これらの問題に共通しているのは、「お金の問題」より「関係性と仕組みの問題」だということだ。


採用コストの現実

まず採用コストの実態を把握する。

主な採用手段とコスト目安

採用手段 費用目安 特徴
大手求人サイト(Indeed等) 無料〜数万円/月 応募数は多いが質のバラツキが大きい
飲食専門求人サイト 3万〜30万円/掲載 飲食経験者が集まりやすい
ハローワーク 無料 費用ゼロだが応募まで時間がかかる
SNS採用(Instagram等) 広告費のみ 店のファンが応募してくることが多い
紹介(リファラル採用) 紹介料のみ 定着率が高い傾向がある
派遣・紹介予定派遣 時給+マージン 即戦力だがコストが高い

大手求人サイトで1名採用するための実質コストは、掲載料・面接コスト・教育コストを合わせると10〜30万円になることも珍しくない。そして3ヶ月で辞められたら、またその費用がかかる。

この構造を変えるには「採用を増やす」のではなく「辞める人を減らす」ことが先決だ。


辞めない職場を作る7つの実践

実践①|入社前のミスマッチをなくす「正直な求人票」

求人票に良いことだけを書くと、入社後のギャップが生じて早期離職につながる。

やること: 求人票に書くべき「正直な情報」を洗い出す。

  • ピーク時間帯の業務量(「昼の2時間はかなり忙しい」等)
  • 実際のシフトパターン(「希望は出せるが土日は基本出勤」等)
  • 調理・接客の比率
  • 店長・先輩スタッフの雰囲気(写真や動画があるとより効果的)

「良いことだけ書いて人を集める」より「実態に合った情報で適切な人を集める」方が、長期的なコストは低い。

現場で見た成功例: ある居酒屋では求人票に「昼の仕込みは地味な作業が多いです。でも丁寧に仕事をしてくれる人を求めています」と書いたところ、応募数は減ったが採用した3人全員が1年以上定着した。


実践②|最初の1ヶ月が定着率を決める「オンボーディング」

新人スタッフが辞めやすいのは入社後1〜3ヶ月だ。この時期に「ここで働き続けたい」と思わせることができれば、定着率は大きく改善する。

やること:

入社初日に必ずすること

  • 職場全員に紹介する(名前だけでなく「こういう経緯で来てくれた」という一言を添える)
  • 持ち物・ロッカー・休憩場所など基本的な案内をする
  • 最初の仕事は「必ず成功できる簡単なこと」から始める
  • 終業時に「今日どうだった?」と声をかける

最初の1ヶ月にすること

  • 週1回、5分でいいので1on1の会話の機会を作る
  • 「わからないことを聞ける先輩」を一人決めて紹介する
  • 小さなことでも「ありがとう」「助かった」を言葉にして伝える

コストはほぼゼロだ。必要なのは「意識的に関わる」という姿勢だけだ。


実践③|シフト管理の改善

飲食店でスタッフが不満を感じる最大の原因の一つがシフト管理だ。

よくある問題

  • シフトが直前まで決まらない
  • 希望を出しても通らない
  • 急なシフト変更を強要される
  • 閉店後の片付けで退勤時間が毎回遅れる

具体的な改善策

シフト提出・確定のルールを決める 「シフト希望は月末までに提出、翌月のシフトは月初5日までに確定して通知する」というルールを設けるだけで、スタッフの不満は大きく下がる。

最低限の休日希望は必ず通す 月2〜3日の「絶対に休みたい日」は必ず通す方針を明確にする。100%の希望を通すことは難しいが、「最低限の希望は尊重される」という信頼感が定着につながる。

退勤時間を守る 「〇時閉店→〇時退勤」の目安を明確にする。毎回30分〜1時間遅れる状態が続くと、スタッフの生活設計が崩れて離職につながる。


実践④|評価・昇給の仕組みを作る

「頑張っても頑張らなくても同じ」という状態では、仕事への意欲が失われる。

シンプルな評価基準の例

レベル 条件 時給
入門 入社〜3ヶ月 基本時給
基本 業務全般を一人でこなせる +50円
熟練 後輩指導ができる +100円
リーダー シフト管理・発注補佐ができる +150円

金額は店の規模に合わせて設定する。重要なのは「何ができれば上がるか」が明確であることだ。

評価の伝え方 評価のタイミングで「あなたが〇〇できるようになったから時給を上げる」と明確に伝える。「なんとなく上がった」では効果が半減する。


実践⑤|コミュニケーションの仕組みを作る

小規模飲食店では、店長やオーナーとスタッフが直接コミュニケーションを取れる環境がある。これは大企業にはない強みだ。

実践できること

朝のひと言 開店前に全スタッフに声をかける習慣を作る。「今日もよろしく」の一言でいい。これだけで職場の雰囲気が変わる。

感謝を言葉にする 「今日のあの対応、良かったよ」「あそこで気が利いたね」など、具体的な行動への感謝を伝える。漠然とした「ありがとう」より、具体的な言及の方が効果が高い。

LINEグループの活用 スタッフ全員のLINEグループを作り、シフト連絡・業務連絡に使う。ただし、プライベートへの過度な関与は避ける。業務連絡に徹することが原則だ。

月1回の全体ミーティング 30分程度で「先月の振り返り・今月の目標・スタッフからの意見」を共有する場を作る。スタッフが「自分の意見が聞かれている」という感覚を持てると定着率が上がる。


実践⑥|紹介採用(リファラル採用)を仕組みにする

定着しているスタッフの知人・友人は、定着する可能性が高い。なぜなら、職場の実態を正直に聞いた上で来るからだ。

やり方

「友人・知人を紹介してくれたら紹介料を払う」という制度を設ける。金額は1万〜3万円程度が相場だが、採用サイトの掲載料と比べれば圧倒的に安い。

ただし前提条件がある。現在のスタッフが「この職場を友人に紹介できる」と思っていることだ。職場に不満を持っているスタッフは紹介しない。紹介採用の応募率は、現在の職場満足度のバロメーターにもなる。


実践⑦|辞める理由を把握する「退職面談」

スタッフが辞めるとき、本当の理由を話してくれないことが多い。「一身上の都合」「家庭の事情」という表向きの理由の裏に、職場への不満が隠れていることがほとんどだ。

退職面談のやり方

退職を申し出てきたスタッフに対して、退職日の1〜2週間前に面談の場を設ける。

聞くべきこと:

  • 辞める直接のきっかけは何か
  • 職場で改善してほしいことはあったか
  • 働いていて良かったと思うことはあったか

重要なのは「引き止めるための面談」ではなく「改善のための情報収集」という姿勢で臨むことだ。引き止めようとすると本音が出てこない。

退職面談で得た情報は記録し、次の採用・職場改善に活かす。同じ理由での離職が続く場合は、構造的な問題がある。


人手不足の時代に飲食店が取るべき根本的な戦略

ここまで述べてきた7つの実践は、どれも「今いるスタッフを大切にする」という考え方に基づいている。

人手不足の根本的な解決策は、採用数を増やすことではない。離職率を下げることだ。

計算してみると明確だ。10人のスタッフを抱える飲食店で、年間離職率が50%(業界平均的な数字)だとすると、毎年5人を採用し直す必要がある。採用コストを1人15万円とすると、年間75万円のコストだ。

これを離職率20%に下げられれば、採用は年間2人で済む。コストは30万円。差額45万円を時給アップやスタッフへの待遇改善に回せば、さらに定着率が上がる好循環が生まれる。


SNSを使った採用広報

求人票だけでなく、SNSを使って「この店で働くとどんな感じか」を発信することが、採用競争力を高める。

Instagramでの採用広報

  • スタッフの日常の様子を投稿する(本人の許可を得た上で)
  • 「スタッフインタビュー」コンテンツを作る
  • 職場の雰囲気が伝わる動画を投稿する

「この店で働いてみたい」と思わせるコンテンツは、求人票の何倍もの情報を伝える。実際に、SNSを見て「応募したくなった」という応募者は増えている。

費用はほぼゼロだ。スマートフォンがあればできる。


小規模飲食店が大手チェーンに勝てるポイント

大手チェーンは時給や福利厚生で小規模店に勝る。しかし小規模店には大手が提供できない価値がある。

小規模店の強み

  • オーナーとの距離が近い
  • 個人の裁量が大きい
  • 「この店のために」という一体感を作りやすい
  • 提案が通りやすい・成長を感じやすい

これらの強みを求人票やSNSで明確に発信することが、大手との差別化になる。「大きな会社では埋もれたくない」「裁量を持って働きたい」という層は確実に存在する。


まとめ|採用より定着、定着より職場づくり

人材問題の解決策を求める飲食店経営者の多くは「どこに求人を出せばいいか」を知りたがる。しかし本当に解決すべき問題は「なぜ人が辞めるか」だ。

7つの実践を再掲する:

  1. 正直な求人票でミスマッチをなくす
  2. 最初の1ヶ月のオンボーディングを整える
  3. シフト管理のルールを作る
  4. 評価・昇給の基準を明確にする
  5. コミュニケーションの仕組みを作る
  6. 紹介採用を制度化する
  7. 退職面談で改善情報を得る

これらはすべて、追加コストがほぼかからない。必要なのはお金ではなく、「スタッフを大切にする姿勢を仕組みにすること」だ。

求人を出す前に、今いるスタッフが「ここで働き続けたい」と思える職場かどうかを問い直すことから始めよう。


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執筆者プロフィール

この記事を書いた人

飲食店のDX・補助金支援を専門に全国の飲食店の経営改善をサポート

調理師免許保有。調理師・給食会社勤務にて10年以上、調理・現場衛生管理・スタッフマネジメントを担当。給食会社の社内SEとして3年間、HACCP記録のデジタル化・POSシステム・勤怠管理のIT化を推進。保健所の立入検査への対応、スタッフへのHACCP教育を現場で積み重ねてきた経験をもとに、飲食店・給食施設向けの実務直結の情報を発信しています。
※本記事の情報は2026年3月時点のものです。法令・制度の改正により内容が変わる場合があります。最新情報は厚生労働省のウェブサイトでご確認ください。