調理師免許×給食SE10年が書く、飲食店・給食施設の現場実務メディア

給食施設の人材不足対策 調理員が辞めない職場を作る7つの方法

給食施設の人材不足対策 調理員が辞めない職場を作る7つの方法

はじめに|給食施設の人材不足は、飲食店より深刻だ

「人が集まらない」「やっと採用できたのにすぐ辞める」「ベテランが退職したら技術が全部消えた」

給食施設の管理者・栄養士からこうした言葉を聞くたびに、筆者は単なる採用の問題ではないと感じてきた。

給食施設の人材不足は、飲食店のそれより構造的に深刻だ。理由がある。

飲食店は営業時間・メニュー・食数をある程度自由に調整できる。人が足りなければ一時的に営業を縮小するという選択肢がある。しかし給食施設にはそれができない。病院の患者は今日も食事が必要だ。老人福祉施設の入所者は今日も3食食べなければならない。学校の子どもたちは今日も給食を待っている。

「人が足りないから今日の給食は中止」は許されない。この絶対的な制約の中で、給食施設は毎日人手不足と戦いながら食事を提供し続けている。

筆者はSEとして10年以上給食施設の現場に入ってきた。人材不足が限界に達している施設を何度も見てきた。そして、同じ地域・同じ条件の中で、人材が定着している施設も見てきた。その差は何か。

このページでは、給食施設の人材不足の根本原因を整理した上で、調理員が「辞めない職場」を作るための7つの方法を具体的に解説する。


給食施設の人材不足の実態

まず数字で現状を把握する。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、調理師・調理員の平均賃金は全職種平均を下回る水準が続いている。給食施設の調理員は特に、パートタイム比率が高く、時給が地域最低賃金水準に近いケースが多い。

さらに給食施設特有の問題がある。早朝からの仕込み作業・昼食提供後の洗浄・夕食準備という時間的拘束、夏場の厨房の過酷な労働環境、体力的に重い作業(大型鍋の移動・大量食材の下処理等)――これらが合わさって、若い世代の入職者が少なく、在職者の高齢化が進んでいる。

給食施設の人材不足が生む悪循環

人が足りない→残ったスタッフへの負担が増える→疲弊して辞める→さらに人が足りなくなる

この悪循環を断ち切るためには、「採用を増やす」という入口の対策だけでなく、「辞める人を減らす」という出口の対策が不可欠だ。


給食施設で調理員が辞める本当の理由

退職理由として「一身上の都合」「家庭の事情」という言葉が使われることが多いが、その裏にある本音を把握することが改善の出発点だ。

筆者が現場で見聞きしてきた、給食施設の調理員が辞める本当の理由をまとめる。

理由①:体力的な限界

給食施設の調理作業は体力的に過酷だ。大量の食材を短時間で処理する下処理作業、重い鍋・大型ホテルパンの移動、夏場の高温環境での連続作業。これらが積み重なって、特に年齢を重ねたスタッフが「体がもたない」と感じて退職するケースが多い。

理由②:評価されている実感がない

「毎日一生懸命やっているのに、誰にも感謝されない」という感覚は、離職の大きな要因になる。給食施設の調理員は、利用者から直接感謝の言葉をもらう機会が少ない。仕事の成果が見えにくいため、「自分の仕事は誰かの役に立っているのか」という疑問を持ちやすい。

理由③:ベテランとの関係性

給食施設の調理現場は、長年同じメンバーで動いていることが多い。このことがベテランスタッフのパワーバランスを強固にし、新人・若手が居心地の悪さを感じるケースが生じる。「古参スタッフとの関係がつらくて辞めた」という声は、現場取材の中で繰り返し聞いてきた。

理由④:将来の見通しが立たない

「この仕事を続けていたら、5年後・10年後に何が得られるのか」という問いへの答えが見えない職場では、スタッフは停滞感を感じて辞める。特に若い調理員は「このままパートを続けることに意味があるのか」と感じて他の仕事に移るケースが多い。

理由⑤:シフト・労働条件への不満

早朝出勤・土日出勤・突発的な残業・希望休が通らないなどのシフト問題は、プライベートへの影響が大きく、離職の引き金になりやすい。特に子育て中のスタッフにとって、シフトの柔軟性は継続就業の死活問題だ。


7つの方法|調理員が辞めない職場を作る

方法①|省力化で体力的な負担を減らす

どんなに働きやすい職場環境を整えても、体力的な限界を超えた仕事量では人は続かない。体力的な負担の軽減は、定着率向上の前提条件だ。

具体的な対策

調理機器による省力化 スチームコンベクションオーブン・自動炒め機・野菜調理機・自動食器洗浄機など、省力化効果が高い機器の導入を検討する。これらの機器は初期投資が必要だが、人件費削減効果と定着率向上効果を合わせた費用対効果は高い。業務改善助成金・省エネ補助金を活用することで、導入コストを抑えられる。

重量物の取り扱い改善 大型鍋・ホテルパンの移動にキャスター台・チルト式鍋を活用する。食材の搬入に台車を使う。「力仕事だから仕方ない」と諦めず、道具で解決できる重量物作業を洗い出すことが重要だ。

作業環境の改善 厨房内の温度・換気の改善は、夏場の過酷な労働環境を緩和する。スポットクーラーの設置・換気設備の強化など、環境改善への投資は採用・定着の両面に効く。


方法②|仕事の「意味」を伝える機会を作る

給食施設の調理員は、自分の仕事が誰かの役に立っているという実感を得にくい構造にある。この問題を意識的に解消することが、働きがいの醸成につながる。

具体的な対策

利用者からのフィードバックを届ける 「今日の〇〇がおいしかったと利用者さんが言っていた」「食欲がなかった入所者さんが今日は完食された」という情報を、厨房スタッフに積極的に伝える。こうした小さなフィードバックが、仕事への誇りと意欲を支える。

利用者と接する機会を作る 可能であれば、調理員が食事提供の場に出て行く機会を作る。利用者から直接「ありがとう」と言われる体験は、間接的な情報では得られない働きがいをもたらす。病院・老人福祉施設では実施が難しい面もあるが、配膳の一部を調理員が担うなどの工夫で実現できることもある。

仕事の社会的意義を語る 採用時・研修時に「給食施設の仕事が持つ社会的な意味」を伝える。高齢者の食は生命維持に直結する。子どもの給食は成長を支える。患者の食事は治療の一部だ。「ただ食事を作っているのではない」という認識を持てるかどうかが、働きがいの土台になる。


方法③|早期離職を防ぐ「最初の3ヶ月」を設計する

給食施設での離職は、入社後3ヶ月以内が最も多い。この時期を乗り越えられるかどうかが、定着を左右する。

具体的な対策

入社初日の設計 新しい職場での最初の日は、誰にとっても不安と緊張の連続だ。この日に「ここは自分を歓迎してくれている」と感じてもらえるかどうかが、その後の定着に大きく影響する。

入社初日にやるべきこと:

  • 全スタッフへの紹介(名前だけでなく「どんな経緯で来てくれたか」を一言添える)
  • ロッカー・更衣室・休憩場所・トイレの案内
  • 最初の仕事は「必ず成功できる簡単な作業」から始める
  • 終業時に「今日どうでしたか?」と声をかける

「質問できる先輩」を一人決めて紹介する 新人スタッフが最も困るのは「誰に質問すればいいかわからない」状態だ。「困ったことは〇〇さんに聞いてください」と明確に伝えることで、孤立感が生まれにくくなる。

週1回の短い面談を設ける 入社後3ヶ月間は週1回、5〜10分でいい。「困っていることはないか」「わからないことはないか」と声をかける場を設ける。問題が小さいうちに拾えることで、取り返しのつかない状況になる前に対処できる。


方法④|シフトの柔軟性を高める

シフト問題は、特に子育て中・介護中のスタッフにとって継続就業の鍵を握る。完璧な希望を通すことは難しいが、「最低限の希望は尊重される」という信頼感を作ることが重要だ。

具体的な対策

シフト提出・確定のルール化 「シフト希望は毎月〇日までに提出、翌月のシフトは〇日までに確定して通知する」というルールを明文化する。直前まで決まらないシフトは、スタッフの生活設計を崩し、不満の最大の原因になる。

「絶対に休みたい日」を保証する 月2〜3日の「外せない用事がある日」は必ず通す方針を明確にする。全希望を通すことは無理でも、最低限の希望は守るという約束が信頼関係の基盤になる。

短時間勤務・時間帯選択の柔軟化 子育て中のスタッフには、子どもの送迎時間に合わせた短時間シフトを設定する。「この時間帯なら出られる」という条件でも働けるシフト設計が、採用対象者の幅を広げ、定着率を上げる。

人員の多層化 フルタイム・パートタイム・短時間パートを組み合わせた人員構成にすることで、シフトの柔軟性が高まる。「この時間帯だけ人が足りない」というピンポイントの問題に、短時間パートで対応できる。


方法⑤|スキルアップと評価の仕組みを作る

「頑張っても頑張らなくても同じ」という状態は、仕事への意欲を削ぐ。成長と評価が見える仕組みを作ることが、長期定着につながる。

具体的な対策

スキル評価制度の導入

給食施設の調理員向けのシンプルなスキル評価の例:

レベル 条件 処遇
入門 入社〜3ヶ月 基本時給
基本 主要な調理工程を一人でこなせる +30〜50円
熟練 全工程をこなせ、後輩指導ができる +80〜100円
リーダー シフト管理・発注補佐ができる +150〜200円

「何ができれば評価が上がるか」が明確であることが重要だ。評価のタイミングで「あなたが〇〇できるようになったから時給を上げる」と言語化して伝える。

資格取得の支援 調理師免許・食品衛生責任者・栄養士などの資格取得を支援する制度を設ける。受験費用の補助・資格手当の設定など、資格取得がスタッフ自身のメリットになる仕組みを作る。

できるようになったことを言葉にする 「先月は大量の野菜の下処理に時間がかかっていたのに、今月は半分の時間でできるようになっていますね」という具体的な成長の指摘は、スタッフが自分の成長を実感するきっかけになる。


方法⑥|現場の「声」を拾う仕組みを作る

給食施設の現場では、スタッフが「言いたいことを言えない」雰囲気になっているケースが多い。ベテランスタッフへの遠慮・管理者への気兼ね・「言っても変わらない」という無力感――これらが積み重なって、問題が表面化しないまま退職という形で出てくる。

具体的な対策

月1回の全体ミーティング 30分程度で「先月の振り返り・今月の予定・スタッフからの意見・要望」を共有する場を設ける。ポイントは「管理者が話す場」ではなく「スタッフが話す場」にすることだ。

匿名の意見箱を設置する 直接言いにくい意見・不満を書いて入れられる意見箱を設置する。匿名であることで、普段は出てこない本音が拾える。重要なのは、入った意見に必ず回答・対処することだ。「意見を出しても何も変わらない」という体験を繰り返すと、意見箱は使われなくなる。

退職面談を「改善のための情報収集」と位置づける スタッフが退職を申し出た際に、「引き止めるための面談」ではなく「改善情報を得るための面談」として実施する。退職を決意したスタッフは本音を話しやすい状態にある。「もし改善できるとしたらどんなことですか?」という問いかけで、職場の実態が見えてくる。


方法⑦|紹介採用と地域とのつながりを活用する

求人広告に頼らない採用ルートを開拓することで、採用コストを削減しながら定着率の高い人材を確保できる。

具体的な対策

紹介採用(リファラル採用)の制度化 現在のスタッフが「この職場を友人・知人に紹介できる」と思っている場合、紹介採用は最も効果的な採用方法になる。紹介料(1万〜3万円程度)を設定し、制度として明文化する。

紹介採用が機能するかどうかは、現在のスタッフの職場満足度のバロメーターでもある。紹介が全く出てこない場合は、現在のスタッフが職場に問題を感じているサインかもしれない。

調理師専門学校・職業訓練校との連携 地域の調理師専門学校・職業訓練校と関係を築き、実習受け入れ・求人情報の提供を行う。実習生として働いた経験のある人材は、職場の実態を知った上で入職するため、ミスマッチが少なく定着率が高い傾向がある。

ハローワークの積極活用 求人サイトに比べてコストがかからない。特に中高年・障がい者雇用など、給食施設と相性が良い層へのアプローチにハローワークは有効だ。担当者と関係を築くことで、条件に合う求職者を優先的に紹介してもらえることもある。

地域の主婦・シニア層へのアプローチ 給食施設の調理員として適性が高いのは、料理経験が豊富な主婦層・定年後も働きたいシニア層だ。子育てが一段落した40〜50代の女性、定年退職後に社会とのつながりを求める60代の男性など、求人サイトを積極的に使わない層へのアプローチが有効だ。地域の公民館・スーパーへの求人チラシ掲示、地域の広報誌への求人掲載など、アナログな手段が意外に効果を発揮することがある。


人材不足に対処する上で絶対にやってはいけないこと

良かれと思って取る行動が、逆効果になるケースを3つ挙げる。

やってはいけないこと①:人員不足を残ったスタッフへの残業で補い続ける

「今が踏ん張り時」として、残ったスタッフに残業・休日出勤を繰り返し求めることは、短期的には乗り切れても、中期的にスタッフの疲弊を招き、追加の離職を生む。人員不足を個人の頑張りで補う体制は持続しない。

やってはいけないこと②:採用基準を下げ続ける

人が来ないからといって採用基準を下げ続けると、職場の規律・作業品質が低下し、既存スタッフの不満が高まる。「誰でもいいから採用する」は短期的な解決にしかならず、長期的には職場環境の悪化を招く。

やってはいけないこと③:人材不足を「仕方ない」で片付ける

「業界全体が人手不足だから仕方ない」という諦めは、改善を止める。同じ地域・同じ条件の中でも、定着率が高い施設は存在する。その差は「仕方ない」と諦めずに改善を続けてきた積み重ねだ。


特別養護老人ホームでの改善事例

筆者が関わった特別養護老人ホームの給食部門での事例を紹介する。

状況: 調理員12名(正社員2名・パート10名)の施設で、年間離職率が40%を超えていた。常に人手不足の状態で、残ったスタッフへの負担が大きく、さらなる離職を招くという悪循環に陥っていた。

取り組んだこと:

まず退職者全員に退職面談を実施し、離職理由を収集した。最も多かったのは「ベテランパートとの関係がつらい」「評価されている感覚がない」の2点だった。

これを受けて以下の改善を行った。

  • ベテランスタッフへの個別面談を実施し、新人指導の役割を明確化した上で「指導者手当」を設定した
  • 全スタッフ参加の月次ミーティングを開始し、「今月うまくいったこと・改善したいこと」を共有する場を作った
  • スキル評価制度を導入し、習得したスキルに応じた時給改定を半年ごとに実施した
  • 入社後3ヶ月間、管理栄養士が週1回15分の面談を実施した

結果:

取り組み開始から1年後、年間離職率が40%から15%に改善した。採用コストが大幅に削減された分を、スタッフの時給引上げに回すことができた。

コストをかけた改善はほとんどない。変わったのは「スタッフへの関わり方」だった。


まとめ|人が辞めない職場は、意図的に作るものだ

給食施設の人材不足対策として、7つの方法を解説してきた。

  1. 省力化で体力的な負担を減らす
  2. 仕事の「意味」を伝える機会を作る
  3. 早期離職を防ぐ「最初の3ヶ月」を設計する
  4. シフトの柔軟性を高める
  5. スキルアップと評価の仕組みを作る
  6. 現場の「声」を拾う仕組みを作る
  7. 紹介採用と地域とのつながりを活用する

これらに共通するのは、特別なコストや技術が必要なものではないという点だ。必要なのは「スタッフを大切にする姿勢を、仕組みとして実装すること」だ。

人が辞めない職場は、偶然できるものではない。意識的に、継続的に作り続けるものだ。

給食施設の食事は、利用者の命と健康を支えている。その食事を作る調理員が、誇りと安心を持って働ける職場を作ることは、利用者へのサービス品質に直結する。

スタッフが辞めない職場を作ることは、利用者のための投資でもある。


関連記事

  • 給食施設のHACCP対応 現場で本当に使える衛生管理の進め方
  • 給食施設のコスト削減 食材費・人件費を無理なく下げる実践法
  • 給食施設のIT導入 栄養管理システム選びと失敗しない運用のコツ
  • 給食施設が使える補助金・助成金【2026年版】

この記事をシェアする

記事一覧へ戻る

執筆者プロフィール

この記事を書いた人

飲食店のDX・補助金支援を専門に全国の飲食店の経営改善をサポート

調理師免許保有。調理師・給食会社勤務にて10年以上、調理・現場衛生管理・スタッフマネジメントを担当。給食会社の社内SEとして3年間、HACCP記録のデジタル化・POSシステム・勤怠管理のIT化を推進。保健所の立入検査への対応、スタッフへのHACCP教育を現場で積み重ねてきた経験をもとに、飲食店・給食施設向けの実務直結の情報を発信しています。
※本記事の情報は2026年3月時点のものです。法令・制度の改正により内容が変わる場合があります。最新情報は厚生労働省のウェブサイトでご確認ください。