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小規模飲食店のHACCP義務化 最低限やること5ステップ

小規模飲食店のHACCP義務化 最低限やること5ステップ

はじめに|「HACCPをやれ」と言われても、何をすればいいのかわからない

2021年6月、食品衛生法の改正によりHACCPへの対応が全ての食品事業者に義務化された。飲食店も例外ではない。

しかし現場の実態はどうか。

「HACCPって何をすればいいんですか?」「記録って毎日書かないといけないんですか?」「保健所に何か提出するんですか?」――こうした質問が、義務化から数年が経った今でも絶えない。

理由は明確だ。行政の説明が難しすぎる。厚生労働省のガイドラインを開いてみると、「危害要因分析」「重要管理点」「モニタリング手順」といった言葉が並ぶ。食品衛生の専門家でもなければ、読み解くだけで半日かかる。

筆者は調理師免許を持ち、給食施設向けのITシステム導入SEとして10年以上現場を見てきた。その経験から言えることがある。小規模飲食店がやるべきHACCPは、思っているより単純だ。

このページでは、小規模飲食店(概ね従業員50人未満)が対象となる「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に絞って、最低限やるべきことを5つのステップで解説する。難しい理論は後回しでいい。まず「何をするか」を理解して、動き始めることが先決だ。


そもそもHACCPとは何か|3行で理解する

HACCPとは、食品の製造・調理における危険なポイントを事前に特定し、そこを重点的に管理する手法だ。

もともとはNASAの宇宙食管理から生まれた概念で、食中毒や異物混入などの「危害」が起きる前に防ぐことを目的としている。

小規模飲食店向けに言い換えるなら:

「食中毒が起きやすい場面を把握して、毎日チェックする仕組みを作ること」

これだけだ。


大規模事業者と小規模事業者の違い

HACCPには2種類ある。

① HACCPに基づく衛生管理(大規模事業者向け) 食品製造業など、一定規模以上の事業者が対象。コーデックス委員会の7原則に完全準拠した本格的な管理が必要。

② HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(小規模事業者向け) 飲食店・小規模食品製造業などが対象。業界団体が作成した「手引書」をもとに、自分の店に合った衛生管理を行う。

小規模飲食店が対象になるのはだ。①のような複雑な書類管理や専門的な分析は求められていない。

「HACCPは難しそう」というイメージの多くは、①の情報を見てしまっているケースだ。


ステップ1|手引書を手に入れる

まず最初にやることは手引書を入手することだ。

厚生労働省は、業種ごとに「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」を作成・公開している。飲食店向けには、日本食品衛生協会が作成した手引書がある。

入手先: 厚生労働省ウェブサイト(無料でダウンロード可能)

手引書には、飲食店で起こりうる危害要因と、その管理方法がまとめられている。これをそのまま使えばいいので、ゼロから考える必要はない。

現場でよく見る失敗: 手引書を読まずに「HACCPをやっている雰囲気」だけ作ろうとするケース。記録表だけ買ってきて、中身を理解しないまま形だけ整える。保健所の立入検査では、こういったケースは一発で見抜かれる。

手引書を一度通読することで、自分の店でどの工程が危険なのかが見えてくる。時間にして1〜2時間あれば読める分量だ。


ステップ2|自分の店の「危険なポイント」を洗い出す

手引書を読んだら、次は自分の店の調理工程を書き出す。

難しく考える必要はない。「仕入れ→保管→下処理→調理→盛り付け→提供」という流れを紙に書くだけでいい。

この工程の中で食中毒リスクが高いポイントを特定する。代表的なものは以下の通りだ。

温度管理が必要な工程

  • 食材の冷蔵・冷凍保管
  • 加熱調理(中心温度の確認)
  • 調理後から提供までの時間管理

交差汚染が起きやすい工程

  • 生肉・生魚を扱った後の手洗い
  • まな板・包丁の使い分け
  • 調理済み食品と生食材の保管場所

異物混入リスクがある工程

  • 食材の検品
  • 盛り付け時の確認

これらのポイントを「自分の店ではどうなっているか」という視点で確認する。すでに当たり前にやっていることが多いはずだ。HACCPとは、その「当たり前」を文書化・記録化する作業でもある。


ステップ3|管理基準を決める

危険なポイントが特定できたら、各ポイントに対して**「何をどこまで管理するか」の基準を決める**。

難しく聞こえるが、飲食店の場合はほぼ決まった基準がある。

温度管理の基準

管理項目 基準値
冷蔵庫の温度 10℃以下
冷凍庫の温度 -15℃以下
加熱調理の中心温度 75℃以上(1分以上)※二枚貝等は85〜90℃
揚げ油の温度 設定温度±10℃以内

時間管理の基準

  • 調理後2時間以内に提供(常温保管の場合)
  • 前日仕込みは冷蔵保管し翌日中に使用

これらは手引書にも記載されている基準だ。特別なことは何もない。ポイントは「決めた基準を文書に残すこと」だ。口頭での申し合わせではなく、紙やデータで明示することが求められている。


ステップ4|記録表を作って毎日記録する

HACCPで最も重要なのが記録だ。

「やっている」だけでは不十分で、「やったことを証明できる記録が残っている」ことが求められる。

ただし、記録の形式に決まりはない。市販の記録表を使っても、自分で作ったExcel表でも、手書きのノートでも構わない。

最低限記録すべき項目

毎日の記録

  • 冷蔵庫・冷凍庫の温度(開店前・閉店後)
  • 加熱調理の中心温度確認(料理ごと)
  • 従業員の健康チェック(下痢・発熱・手指の傷の有無)
  • 手洗いの実施確認

週次・月次の記録

  • 機器の清掃・点検記録
  • 害虫・ネズミの確認記録
  • 食材の仕入れ先確認

現場で起きていること: 筆者が関わった施設では、記録表を「書いたことにする」運用が横行していたケースがあった。閉店後にまとめて記入したり、実際に測定していない温度を書いたりするケースだ。これは論外だが、現実としてある。保健所の立入検査では記録の継続性や整合性を見るため、こういった運用は長続きしない。

記録は「面倒なもの」ではなく「自分の店を守るもの」という意識が大切だ。実際に食中毒が発生した場合、適切な記録があるかどうかで行政処分の重さが変わる。


ステップ5|定期的に振り返って改善する

HACCPは「導入したら終わり」ではない。定期的に内容を見直し、改善を加えていくことが求められている。

とはいえ、小規模飲食店に大規模な内部監査は不要だ。月に一度、以下の点を確認するだけで十分だ。

月次確認チェックリスト

  • 記録表が毎日記入されているか
  • 管理基準を外れたケースはあったか(あった場合、どう対処したか)
  • メニューや仕入れ先に変更はあったか(変更があれば危害要因の見直しが必要)
  • 従業員への衛生教育は行ったか

「改善」と聞くと大げさに聞こえるが、「先月は冷蔵庫の温度が高い日が3日あったから、扉の開閉を減らすルールを決めた」程度のことでいい。こうした小さな改善の積み重ねが、本物のHACCP管理につながる。


HACCPに関してよくある誤解

誤解①「専門のコンサルタントを雇わないといけない」

不要だ。小規模飲食店のHACCPは、手引書を読めば自力で対応できる。コンサルタントに依頼すれば確かに楽だが、費用対効果を考えると、まず自分でやってみることを推奨する。

誤解②「保健所に書類を提出しないといけない」

提出は不要だ。HACCPの記録は店舗で保管するものであり、行政に提出するものではない。ただし、立入検査の際には提示を求められる。

誤解③「記録表は市販のものを買わないといけない」

不要だ。自作で構わない。重要なのは「記録があること」であり、フォーマットではない。

誤解④「違反したらすぐ営業停止になる」

そうではない。現時点では、HACCPへの対応が不十分でも、直ちに行政処分になるわけではない。ただし、食中毒が発生した場合や、保健所の指導に繰り返し従わない場合は処分の対象になりうる。


保健所は実際に何を見るのか

実際の立入検査の現場を知っている立場から言うと、保健所の担当者がHACCCPの立入検査で最初に確認するのは記録表が存在するかどうかだ。

記録の内容を細かく分析したり、管理基準の妥当性を専門的に評価したりするケースは、少なくとも一般的な定期立入検査ではほとんどない。

「記録表がある」「毎日記録されている」「温度の数字が記録されている」――この3点が確認できれば、多くのケースでHACCPへの対応は「実施済み」と判断される。

これが現実だ。完璧を目指す前に、まず記録を残す習慣をつけることが最優先だ。


小規模飲食店向けHACCP導入コスト

HACCPの導入に大きなコストはかからない。

初期費用の目安

項目 費用
手引書 無料(ダウンロード)
記録表 自作なら無料・市販品は1,000〜3,000円程度
温度計(中心温度計) 2,000〜5,000円程度
冷蔵庫用温度計 500〜1,500円程度

合計で5,000〜10,000円程度あれば必要な道具は揃う。

毎月かかるランニングコストはほぼゼロだ。記録用紙の印刷代程度しかかからない。


まとめ|HACCPは「仕組みを作ること」が目的

小規模飲食店のHACCP対応を5つのステップでまとめると:

  1. 手引書を手に入れて読む(飲食店向け手引書は無料)
  2. 自分の店の危険なポイントを洗い出す(温度・交差汚染・異物が中心)
  3. 管理基準を決める(温度の数値など、具体的な基準を文書化)
  4. 記録表を作って毎日記録する(形式は問わない、継続が重要)
  5. 月に一度振り返って改善する(小さな改善を積み重ねる)

HACCPは「食中毒を出さないための仕組み作り」だ。完璧な書類を作ることが目的ではない。

現場で毎日食材を扱い、お客様に料理を提供しているあなたは、すでにHACCPの考え方の多くを実践している。それを「見える形」にすることが、法律が求めていることのすべてだ。

まず手引書を読むことから始めよう。それが最初の一歩だ。


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執筆者プロフィール

この記事を書いた人

飲食店のDX・補助金支援を専門に全国の飲食店の経営改善をサポート

調理師免許保有。調理師・給食会社勤務にて10年以上、調理・現場衛生管理・スタッフマネジメントを担当。給食会社の社内SEとして3年間、HACCP記録のデジタル化・POSシステム・勤怠管理のIT化を推進。保健所の立入検査への対応、スタッフへのHACCP教育を現場で積み重ねてきた経験をもとに、飲食店・給食施設向けの実務直結の情報を発信しています。
※本記事の情報は2026年3月時点のものです。法令・制度の改正により内容が変わる場合があります。最新情報は厚生労働省のウェブサイトでご確認ください。